Short Novel

よそ見ばかりの
キミと、この街で恋をした。

人は、誰かを想いながら、すれ違っていく。——渋谷のスクランブル交差点で始まった、三人の物語。

#交差点#すれ違い#通知#5センチの距離#圏外
KEY VISUAL
CHARACTERS
藤井 結衣
藤井 結衣 (ふじい ゆい)27
広告代理店勤務

交差点で名刺を拾った側。仕事はできるが、大切な人にはうまく素直になれない。

神谷 遥
神谷 遥 (かみたに はるか)24
フリーランスグラフィックデザイナー

スマホの画面をひび割らせた側。マイペースに見えて、一度決めた気持ちは早い。

成瀬 隼人
成瀬 隼人 (なるせ はやと)26
表参道の路地裏のカフェのバリスタ

誰にも気づかれずに、いつもこの街の「よそ見」を見ている。

PROLOGUE

雨上がりの匂いがする交差点だった。信号が変わるたび、何百本もの傘が一斉に開き、一斉にたたまれる。誰もが俯いて、掌の中の小さな光だけを見つめている。世界で一番人が多い場所なのに、世界で一番、誰も誰かを見ていない場所。

ハルカもまた、その他大勢のひとりだった。左手に画材の入ったトートバッグ、右手にスマートフォン。「ここではない、どこか」を探すように、指だけが画面の中をさまよっている。

だから、彼女は気づかなかった。青信号の向こうから、まっすぐにこちらへ歩いてくる、隙のない足取りの女性がいることに。

一

交差点のクラッシュ

肩がぶつかったのは、二人が交差点のちょうど真ん中に差しかかった瞬間だった。

「あ——」スマホの画面から目を離す間もなく、ハルカの手から抱えていたラフスケッチと写真が数枚、雨に濡れたアスファルトに散らばる。屈んで拾おうとした指先に、もう一人分の指先が重なった。顔を上げると、隙のない足取りで立つ、長い黒髪の女性——ユイと目が合う。散らばった中から、名刺も一枚落ちていた。拾い上げたユイは、そこに印字された「Haruka」の文字を、なぜか少しの間、見つめてしまう。

「ごめんなさい、スマホばっかり見てて」そう言ったハルカの声は、謝罪にしては少し軽やかだった。「これ、お仕事のですよね」ユイが名刺を差し出すと、ハルカは笑って首を振った。「よかったら、持っていてください。連絡先、交換したことなかったので」

その一部始終を、通りに面したカフェの窓越しに眺めている男がいた。黒いフーディーのフードを目深に被り、コーヒーカップの向こうで静かに視線だけを動かしている。ハヤト。誰にも気づかれないまま、彼はいつもこの街の「よそ見」を見ていた。

ぶつかった瞬間だけ、画面から目が離れた。

第一章 ① 20時のスクランブル
① 20時のスクランブル
第一章 ② 散らばった視線
② 散らばった視線
第一章 ③ 透明な観測者
③ 透明な観測者
— 試し読みはここまで —
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