交差点のクラッシュ
肩がぶつかったのは、二人が交差点のちょうど真ん中に差しかかった瞬間だった。
「あ——」スマホの画面から目を離す間もなく、ハルカの手から抱えていたラフスケッチと写真が数枚、雨に濡れたアスファルトに散らばる。屈んで拾おうとした指先に、もう一人分の指先が重なった。顔を上げると、隙のない足取りで立つ、長い黒髪の女性——ユイと目が合う。散らばった中から、名刺も一枚落ちていた。拾い上げたユイは、そこに印字された「Haruka」の文字を、なぜか少しの間、見つめてしまう。
「ごめんなさい、スマホばっかり見てて」そう言ったハルカの声は、謝罪にしては少し軽やかだった。「これ、お仕事のですよね」ユイが名刺を差し出すと、ハルカは笑って首を振った。「よかったら、持っていてください。連絡先、交換したことなかったので」
その一部始終を、通りに面したカフェの窓越しに眺めている男がいた。黒いフーディーのフードを目深に被り、コーヒーカップの向こうで静かに視線だけを動かしている。ハヤト。誰にも気づかれないまま、彼はいつもこの街の「よそ見」を見ていた。
ぶつかった瞬間だけ、画面から目が離れた。





